父ありき 4Kデジタル修復版(※2K放送)

生誕120年を迎える“日本のおじいちゃん”笠智衆さん、小津作品での父親像、「男はつらいよ」御前様から振り返る偉大な奇跡

2024.04.27 18:00
父ありき 4Kデジタル修復版(※2K放送)

「東京物語」(1953年)をはじめとした小津安二郎作品や「男はつらいよ」シリーズの“御前様”役で広く知られる笠智衆さん。5月13日(月)に迎える生誕120年を記念して、CS衛星劇場では5月、テレビ初放送の映画作品を取りそろえた特集を展開する。本記事では、古き良き日本を味わい深く切り取った名作に多数出演し“日本のおじいちゃん”と呼ばれ愛された笠さんの魅力に迫る。

小津安二郎に見いだされ、小津作品に欠かせない存在へ

1904年5月13日、熊本県の浄土真宗本願寺派の寺に生まれた笠さん。日本映画界に刻まれた“笠智衆”という名前は、そのときに付けられた本名だ。実家の寺を継ぐためという名目で大学に進学したものの、20歳で中退。松竹キネマ蒲田撮影所の研究生募集に応募し、第1期研究生となった。

この頃にはもう、寺を継ぐつもりはなかったという逸話も。研究生となった直後に父が亡くなり、1度は実家に戻って住職となったが、翌年再び上京。その後10年ほど大部屋俳優として過ごしたのち小津監督に見いだされ、小津作品に欠かせない存在になっていった。

ほかにも清水宏、渋谷実、木下惠介らの監督作に数多く出演。山田洋次監督「男はつらいよ」シリーズには第1作(1969年)から、亡くなる前年公開の第45作「寅次郎の青春」(1992年)まで出演。柴又帝釈天・題経寺の住職、通称“御前様”を演じ続けた。

実年齢を超えて、小津監督作品で見せた“日本の父親”像

「男はつらいよ」シリーズではコミカルでチャーミングな御前様がはまっていた笠さんだが、小津監督作品では30代の頃から老け役を演じ、存在感を発揮した。

初めて小津監督作品で主演を務めた「父ありき」(1942年)では、実年齢30代にして、息子の成長を見守る寡黙な父親役を演じた。成長した息子役・佐野周二とはわずか7歳差。この作品は、父と子が釣りをするシーンなど小津美学の重要な要素が含まれた、小津安二郎を語る上でも欠くことのできない一作で、今回の特集では4Kデジタル修復版(※2K放送)が5月2日(木)朝11:35からテレビ初放送される。

以降も、小津作品を中心に“日本の父”の姿をスクリーンで体現してきた笠さん。原節子、田中絹代、杉村春子の父親役…と、年の近い俳優たちの父親役として、実年齢を感じさせない哀愁漂う人物を演じてきた。“日本の父親像”と聞くと、着流し姿で少し背中を丸めるようにして座る笠さんの姿を思い浮かべる人も少なくないだろう。

あったかい人柄が魅力「男はつらいよ」の御前様

そんな笠さんのあゆみを振り返る時、ひときわ存在感を放つのは20年以上にわたって演じ続けた「男はつらいよ」の御前様だろう。

博識で、地域の人々の尊敬を集める人徳者である一方、美女には弱いチャーミングな御前様。寅次郎をヨチヨチ歩きの頃からよく知っており、第1作のマドンナ・冬子(光本幸子)の父でもある。問題を起こす寅次郎を「困った…実に困った」とやきもきしながら見守る一方、寅次郎の真っすぐな気性を愛していて「寅のような無欲な男と話していると、むしろホッといたします」などと語ったりもする。

そんなあったかい柴又のご住職、御前様を、笠さんは65歳の年から88歳の年まで、まるで時が止まっているかのように変わらぬ姿で演じ続けた。

今回、衛星劇場の特集ではそんな「男はつらいよ」から、マドンナ・都はるみの美声も響き渡る「旅と女と寅次郎」を5月6日(月)に、「寅次郎恋歌(日本語字幕放送)」を12日(日)に、寅次郎が岡山で坊さんになりきる「口笛を吹く寅次郎」を13日(月)に。そして寅次郎の渡世人稼業にフォーカスを当てた「夜霧にむせぶ寅次郎」を20日(月)に、さらに2作を加えた計6作品を放送する。

一儲けを企む大家役も…テレビ初放送の笠智衆出演作品6本

“老け役”と御前様のイメージが強い笠さんだが、60年超の俳優人生では多彩な役柄に挑んでいる。今回の特集には、笠さんが「男はつらいよ」よりも前に出演した貴重なテレビ初放送作品が「父ありき4Kデジタル修復版(※2K放送)」をはじめ、計6作品登場する。

5月1日(水)朝11:45から放送の「女嫌い」(1964年)は、笠さんが突然浮気心を起こした堅物中年の悲哀を演じた喜劇。製鉄会社に勤める原(笠さん)は、浮気の虫を起こし元同僚の女性を京都出張に同伴。小さな出来心が、友人家族らを巻き込んだ騒動へと発展する。

5月3日(金)朝11:30から放送の「南の風 瑞枝の巻」と4日(土)朝11:30からの「續 南の風」(ともに1942年)は、朝日新聞に連載された獅子文六の小説を映画化した二部作。会社をクビになってぶらぶら暮らす優柔不断な青年(佐分利信)の物語で、笠さんは主人公に怪しい儲け話を持ち掛ける旧友役で登場する。

5月5日(日)朝11:30からの「鍵を握る女」(1946年)では、住宅難に便乗して一儲けを企むアパート大家役。アパートに暮らす貧しい人々との間に、人情味あふれるストーリーが展開する。そして6日(月)朝11:45からの「噂の男」(1948年)では、北国の山深い炭鉱の所長役。「父ありき」で親子を演じた佐野周二との再共演作としても味わい深い。

奇しくも2024年は、「男はつらいよ」第1作公開55周年でもあり盛り上がる日本映画界。55年は節目というには少々半端なようでもあるが、“すべての人の背中を55(ゴーゴー)と押してくれる寅さん”を思ってのプロジェクトだという。こんな遊び心ある企画が生まれるのも、多くのファンに愛され、支えられる「男はつらいよ」ならではだ。

笠さんも、そんな「男はつらいよ」の世界の愛すべき住人のひとり。御前様はもちろん、小津作品での穏やかな父親像、そして今回テレビ初放送の5作で見せているコミカルなキャラクターまで、この機会に日本映画界の宝・笠智衆さんの魅力を今一度、振り返ってみてはいかがだろうか。

◆文/酒寄美智子

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